Diary 雑記

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去年も一昨年も、僕の友人知人には暗いニュースが多かった。職場でいじめられたり、働きすぎて精神を病んだり、リストラされたり、親兄弟が亡くなったり、親の介護に追われたり……そんな話題ばかりだった。

ちょうど僕たちの年齢は、そういう時に差し掛かっているのだろう。親の介護をしている人達は、かなり多いのだ。

そして、今年も早々に嫌なニュースが飛び込んで来た。

半月ほど前、吉祥寺に暮らす姉(僕の義姉)から、妻に電話がかかってきた。

僕は隣で執筆をしていたので、姉と話している妻の顔が見る見る強ばるのがわかった。

「何かあったの?」

わずかに胸を高鳴らせながら、電話を終えた妻に僕は訊いた。

「うん。それがね……」

顔を強ばらせたまま、妻が僕に姉との電話の内容を伝えてくれた。

妻の話を聞いた僕は絶句した。ヨコヤマくん(義姉の夫。彼女は夫を昔からそう呼んでいる。よって、僕たち夫婦もそう呼ぶようになった)が肝硬変になり、腹水が溜まってしまったというのだ!!

それだけでなく、肝臓がんの疑いもあるというのだ!!

義姉によれば、前から膨らんでいたヨコヤマくんの腹部が、年が明けてからさらに膨らみ、腰を屈めるのも辛いほどになったという。

ヨコヤマくんは病院嫌いではあるが、身体も浮腫んでしまったので、しかたなく近くのクリニックに行った。

診察の結果、腹が膨らんでいるのは腹水のせいで、それは肝硬変によるものだとわかった。CT検査では肝臓に怪しい影も見えるらしかった。今後、大学病院でさらに精密な検査を受けるということだった。

「あれだけ飲めば、こうなるのは当たり前よ」

暗い顔をして妻が言った。

僕も無言で頷いた。

確かに、ヨコヤマくんは酒が、特にビールが好きだった。

フリーのグラフィックデザイナーである彼は、少し前まで、妻(僕の妻の姉)とふたりで、自宅でデザインの仕事をしていた。その時には、朝からビールを飲みながら仕事をしていたらしかった。

最近はフリーの仕事が少なくなり、ヨコヤマくんは外で働いていた。だから、昼のあいだは飲めなかった。

けれど、夜は毎晩のように同僚たちと居酒屋に繰り出し、へべれけに酔っぱらい、毎日のように午前さまだったと聞いている。

それにしても、肝硬変になるほど飲むなんて……。

ヨコヤマくんと僕は義理の兄弟ではあるが(義姉は僕よりひとつ上だが、ヨコヤマくんは僕よりひとつ下だ)、そんなにしばしば顔を合わせていたわけではない。それでも、年に一度か二度は一緒に飲んでいたし、20年以上の付き合いだったから、かなりショックだった。

いや……最初の数時間は、そんなにショックではなかった。けれど、時間が経つにつれて、僕はとてつもなく暗い気分になり、仕事が手につかなくなってしまった。

確かにヨコヤマくんは飲み過ぎたのかもしれない。けれど、それは死ななければならないほど悪いことだったのだろうか。そう思った(肝硬変になった人は、必ず死ぬのだと僕は思い込んでいた)。

その後、僕は看護師をしている妹に電話をした。妻の友人の精神科医にも話を聞いた。そして、少しだけだが心の整理ができた。

たとえ、肝硬変で腹水が溜まったとしても、たとえ肝臓がんになったとしても、今はいろいろと有効な治療法があるから、すぐに死ぬことはないのだそうだ。大学病院での精密検査は一ヵ月後だが、肝臓の病気は進行が遅いので、それでかまわないということだった。

義姉に電話をすると、彼女は「太郎くん(僕の本名)、心配しすぎ!! そんなに心配することないよ」と笑っていた。その笑い声にもほっとした。

今、ヨコヤマくんはあれほど飲んでいた酒を完全に断ち(偉いです)、今まで通り通勤している。利尿剤の効果があって、腹部の膨張も軽減し、身体の浮腫もなくなっているという。

肝硬変は完治しないと聞くけれど、何とかヨコヤマくんが今のままの生活を送り続けられることを、僕は今、切望しているのだ。

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