Diary 雑記

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このところ、本が売れない。

どの作品も心を込めて、一生懸命に書いているつもりなのだが、首を傾げたくなるくらいに売れない。

かつては毎月のように出版各社の担当編集者から増刷のお知らせが届いた。作家にとって、増刷の知らせはかなり嬉しいもので、そういう時には必ず高価なシャンパーニュを開けて、妻とふたりでお祝いした。

けれど、最近はめったに増刷の知らせが来ないから、シャンパーニュでお祝いをする機会もめっきりと少なくなってしまった(ワインセラーにシャンパーニュが溢れています)。

増刷の回数が少なくなっただけでなく、初版の発行部数も少しずつ減ってきている。

僕の収入はほぼすべてが、小説を書くことによってもたらされる原稿料と印税である。よって本が売れなくなると、確実に収入が減る。

「売れなくなったら、わたしが食べさせてあげる」

妻はそう言って笑ってはいるが、僕としては何となく不安である。

小説を書くことのほかに、僕にはできることがほとんどないし、もう53歳だから、これから職を探すといっても、かなり難しいだろう。

「どうして、こんなに売れないんだろう?」

僕はしばしば担当編集者たちに、そんな愚痴をこぼしている。

けれど、彼らによれば、僕はまだ売れているほうらしい(特に電子書籍がよく売れているようです)。

「大石さんが売れないなんて言ったら、ほかの作家たちはみんな泣いちゃいますよ」

ある大手出版社の女性編集長はそう言って笑った。

確かに、僕だけではなく、ほかの作家たちの本もびっくりするほど売れないらしい。つい先日、超大物の女性作家が「かつてとは桁が違うほど売れない」と嘆いているのを読んだくらいだ。

なぜ、こんなに本が売れないのか。

僕は電車にはめったに乗らないが、電車を使う時には文庫本を持って行く。サラリーマンだった頃から、車内では本を読んでいるからだ。

けれど、少し前に電車に乗った時に辺りを見回してみたら、なんと、なんと、そこにいた乗客の半分以上がスマートフォンをいじっていた。本を広げている人なんて、僕のほかにはひとりかふたりしかいなかった。

なるほど……これじゃあ、本が売れないわけだ。

僕は思った。そして、スマートフォンなんていうものを発明した人間を恨みもした。

けれど、スマートフォンの登場を恨むのはお門違いである。

悪いのは、スマートフォンではなく、作家である。スマートフォンより楽しいものを書けない小説家が悪いのである。

畜生。スマートフォンに負けてなるものか。

僕は今、そんなことを考えながら机に向かっております。

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