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11月の頭に人間ドックの結果が出た。
いちばん恐れている癌については問題なかったのだが……なんと、なんと、「動脈硬化の疑いあり」と診断されてしまった。
動脈硬化だって? それって、老人の病気じゃないの?
僕は愕然とした。
「この僕が、どうして動脈硬化なんですか?」
僕は主治医(10年以上の付き合いです)に喰ってかかった。その診断を受け入れることができなかったのだ。
動脈硬化になりやすいのは、太っていて、運動不足の人に多いという。
でも、僕の体格は身長173センチで、55キロ弱、脂肪率は10パーセントだ。さらに、スポーツクラブが休みの月曜日以外は、ほぼ毎日、ランニングをし、水泳もしている。運動不足ということは、あり得ない。
主治医によれば、ストレスやバランスの悪い食事が動脈硬化の引き金になるらしい。
だが、僕はそんなにストレスを抱えているわけではない(サラリーマンの友人たちは、もっとストレスを抱えています)。食べ物だって、妻が腕によりをかけた野菜と魚介類中心の食事で、バランスが悪いはずはない。
だとしたら、この僕にどうしろというのだ!!
「うーん。原因は煙草かなあ」
首を傾げながら、主治医が言った。
「煙草ですか」
僕も首を傾げた。
確かに、僕は喫煙者である。10代の頃から煙草を吸っている。
でも、吸うのは1日に8本か9本、多くても10本で、銘柄は「メビュウス」の1ミリグラムという、とても軽い煙草である。
「この際だから,禁煙でもしましょうか?」
主治医は簡単に言った。彼はもう何年も前に禁煙している。おまけに、彼の医院では「禁煙外来」もしている。
禁煙!!
それは困る。困るんですよ、瀬戸先生!!
僕は泣きそうになった。
執筆に行き詰まった時(いつも行き詰まっていますが)の気分転換には、煙草がどうしても必要なのだ。
テラスや屋上バルコニーでぼんやりと煙草をふかしている時に、アイディアが湧き上がることが本当に多いから、もし禁煙すると、小説が書けなくなるかもしれない。
「禁煙は無理ですか。しかたないですね。まあ、誰にでもある老化現象ですから、あんまり気にするのはやめましょう」
苦笑いしながら、主治医は言葉を続けた。
老化現象かあ……。
僕は曖昧に頷くしかなかった。
年を取っていいことなんか、本当に何もありませんね。うんざりします。
そういえば、今度、角川ホラー文庫の担当編集者になった女性(美人です!!)のお父さんは、僕と同い年で、彼女が「アンダー・ユア・ベッド」を初めて読んだのは、小学生の時だったそうです。とほほ。
というわけで、動脈硬化の対策は、何もせずに過ごすことに決めました。