Diary 雑記

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今年から僕は変わった。とてつもなく変わった。

何が変わったかというと……パソコン(MacBookというノートパソコンです)に内蔵されているワードというソフトを使って小説を書くようになったのだ。

デビュー前から25年以上にわたって、僕はワープロで小説を書いて来た。シャープ製の「書院」というワープロで、製造が中止されてからも中古品を何台も買い求め、今も3台を所有している(壊れると修理してもらっていました)。

ほかの作家たちが次々とワープロからパソコンに乗り換えているのは知っていた。

僕のほかにワープロで書いている作家は数えるほどしかいないと言う話も聞いていた。

けれど、僕はワープロにこだわって来た。

ワープロに慣れていたから、パソコンで書くと、いろいろと不便なことが出て来るのではないかと危惧していたのだ。

作風が変わってしまいそうで、それも怖かった。

ワープロで書くことを、「何となく縁起がいい」と考えてもいた。

担当の女性編集者のひとりが僕に言った、「大石さんはワープロでいいですよ。パソコンの練習をしている時間があったら、一行でも多く書いてください」という言葉にも甘えていた。

そんなわけで、これまでの僕は小説を収めたフロッピーディスクを宅配便で出版社に送っていた(フロッピーディスクは製造中止ですが、今でも買えるのです)。

その作業は僕にとっても、それなりに面倒だった。

薄っぺらなフロッピーディスクが破損しないようにきちんと梱包する必要があったし、宅配便の伝票に出版社と自分の住所を記入する必要もあった(横浜市青葉区の自宅の住所はとても長いので、書くのが面倒です)。

ヤマト運輸に電話を入れ、業者の人が取りに来てくれるまで、家にいなければならないというのも少し面倒だった(僕は出不精なので、100メートルほど先のコンビニエンスストアに行くのはもっと面倒でした)。

宅配便が出版社に届くのは翌日になるから、締め切り時間にも配慮する必要があった。

一度、ヤマト運輸がフロッピーディスクを紛失し、締め切り時間に間に合わず、大騒ぎになったこともあった。

やっぱり、パソコンで書いたほうがいいんだろうなあ。

そんなことを考えていた去年、角川書店が自社ではフロッピーディスクを開けず、担当編集者に大きな迷惑をかけた。

彼女は三日にわたってフロッピーディスクを開こうと奮闘した末、ついに諦めて、大手印刷会社(大日本印刷だったか、凸版印刷だったか)にフロッピーディスクを持参し、そこでようやく開いてもらったようだった。

うーん。これはいかん!!

ただでさえ忙しい担当編集者に、そんなことで手間を取らせるなんて、作家としては失格である。

ほかの出版社の人たちも、みんなフロッピーディスクを開くのに苦労しているようだった。

そして、僕は心を決め、1月4日からパソコンで小説を書き始めた。

うまく書けるのかな?

手間がかかるんじゃないかな?

作風が変わったらどうしよう?

僕はさまざまなことを危惧していた。

けれど、それらはすべて杞憂に終わった。

ワードを使って書くのは、ワープロで書くよりずっと、ずっと、ずっと楽だったのだ。

検索、文字の置き換え、複写、移動、登録……何をやっても、ずっと、ずっと、ずっと早かったのだ。

ワープロではひとつの画面で3万字までという制限があったから、前の章を読みたい時には、いちいちフロッピーディスクで呼び出さなくてはならなかった。けれど、ワードには文字制限がないから(あるのかな?)、前の章や前の前の章に書いたことも、簡単に読むことができた。

いいことはほかにもあった。

ワードで書いた文章は、一瞬で担当編集者に届くのである。

これまでの僕はワープロで書いたプロット(僕は日本の作家の中で、いちばん長いプロットを書くと言われています)を担当編集者にファックスしていた。

僕のファックスはオンボロなので、これもけっこう面倒だったし、30分前後の時間もかかった。

けれど、今はボタンひとつでプロットが出版社に届くのである。

パソコンで最初に書いた小説は、「特選小説」に連載予定の官能小説である。

その一回目の原稿を担当編集者に送ると、すぐに彼から「助かります」というメールが届いた。

そう。彼もまた、僕が送るフロッピーディスクを開くのに難儀していたのだ。

「こんなことなら、もっと早くこうしていればよかったな」

僕は今、つくづくそう思っているのです。

担当編集者のみなさま、これまでお手数をおかけしました。

心からお詫びいたします。

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