Diary 雑記

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先月に続いて、今月も交友についての話をする。今回はとても風変わりな夫婦とその弟についてである。

僕たちには長く付き合っている夫妻が何組かいる。その中でもいちばん長く付き合っているのは、平塚に暮らすUさん夫妻(夫は今67歳、妻は70歳。子供なし)と、同じ家に住んでいる旦那さんの弟(62歳、結婚歴なし)である。

彼ら3人との付き合いは、すでに26年になる。

Uさんたちと出会ったのは、平塚の繁華街の居酒屋だった。彼らがその居酒屋を経営していたのだ。日本酒の種類が多いのが自慢の、なかなか落ち着いた店だった(居酒屋を始めるまでのUさんたちは、酒屋さんでした)。

平塚市に暮らしていた頃の僕たちは、その店に実に頻繁に通った。

その頃から、僕たちは旦那さんのことを「お兄さん」、奥さんのことを「お姉さん」、旦那さんの弟のことを「ヒデちゃん」と呼んでいた(子供のいないUさん夫妻は、お互いを「お兄さん」「お姉さん」と呼び合っています)。

その居酒屋は7年か8年前に閉店してしまったが、その後もUさんたちとはずっと付き合い続けている。今も年に何度かは5人で旅行にも出かけてもいる。

僕たちが知っている限り、仲のいい夫婦はあまり多くない(ほとんどいないと言ってもいいかな?)。けれど、お兄さんとお姉さんは驚くほど仲がいい。こんなに仲がいい夫婦がいるのかと思うほどだ。そんな彼らと一緒にいると、僕たちもとても楽しい気持ちになれる。

僕たちの人生も山あり谷ありだった。だが、お兄さんとお姉さんにもさまざまな艱難辛苦が降り掛かった(僕たちとは違い、お金の苦労をしたことは一度もないようですけど)。

その最大の苦難は病だった。

数年前、お姉さんは脳梗塞で倒れて左半身不随になり、今は車椅子生活になってしまった。その何年かあとには、今度はヒデちゃんが病に冒され、今では右手がほとんど使えず、右脚も痺れていて、杖なしでは歩くこともままならなくなってしまった(かつてはクルマの運転が得意でしたが、今はもう運転はできません)。

3人の家族のうちのふたりまでもが病に冒され、障害を抱えてしまったら、普通は暗くなるものだ。僕だったら、悲嘆に暮れてしまうかもしれない。

それにもかかわらず、3人は今も昔と変わらず明るい。そして、3人とも僕たち夫婦と会うことをとても楽しみにしてくれている。

そんなわけで、最近の僕たちはUさん宅を実に頻繁に訪れている。

Uさん宅は先月のこのコーナーに書いたNさんの家に負けないほど広くて立派だ(Nさんちは港区の白金高輪台で、Uさん宅は平塚市の外れですが)。けれど、生活感がまったくなく、リゾートホテルのようだったNさんちに比べると、Uさんの家は極めて所帯臭くて、まるで「ゴミ屋敷」である(お兄さん、お姉さん、勝手なことを書いてごめんなさい)。

Uさんの家は本当に広いのに、3人は窓と雨戸を閉め切った一階のリビングルームに3台のベッドを置き、一日の大半をその部屋でテレビを見たり、インターネットをしたり、それぞれのベッドでうとうとしたりしてすごしている(そのリビングルームもゴミ屋敷ですが、ほかの部屋に比べるといくらかはマシなそうです。二階にはもう何年も足を踏み入れていないそうです。お兄さんは「座って手を伸ばせば何でも届くような、狭い部屋が好きなんだよ」と言っています)。

ただ、Uさん夫妻の名誉のために言うと、「ゴミ屋敷」といっても家中に散乱しているのはガラクタではなく、ほぼすべてが高価なブランド物の靴やバッグや帽子や衣類、アクセサリー類、名のある人の絵画や書なのである(お兄さんとお姉さんは今は無職ですが、とてもお金持ちなのです)。

お姉さんのほとんど唯一の趣味は買い物である。それでお兄さんは毎週のようにお姉さんとヒデちゃんを車に乗せ(僕もやりましたが、ふたりの障害者を車に乗り降りさせるのは、ものすごい重労働です)、都内や横浜の百貨店に行く。そして、「グッチ」や「エルメス」や「シャネル」や「クリスチャン・ディオール」や「ルイ・ヴィトン」で、ものすごい額の買い物をする(僕たちも何度か一緒に買い物に行ったことがありますが、Uさんたちは百貨店にとっては大得意なので、たくさんの店員たちにチヤホヤしまくられています。支配人までが挨拶に来ます。一週間前に横浜の百貨店に行った時には、お姉さんは60万円を超える買い物をしました。お姉さんたちと一緒にいると、僕たちも金銭感覚がおかしくなり、その日の妻は10万円もするマイセンの万華鏡を買っていました)。

けれど、お姉さんは買ってしまえばもう商品にはまったく興味がなくなり、自宅に持ち帰ったものを誰も片付けない。それで必然的に、家の中が「ゴミ屋敷」のようになってしまうのだ(箱から出していないブランド物が、あちらこちらに山積みになっています)。

前述したように、僕たちは年に何度か彼らと旅行に出るのだが、その時の3人の格好はものすごい。3人全員が全身をブランド物に固めているのだ(僕たち夫婦はラフな格好で出かけます)。

先日(3月31日)も3人と箱根の仙石原に1泊2日の旅行に行ったのだが、3人が場違いなほどに着飾っているので、妻と僕は目を丸くしてしまった(お兄さんは10万円のジーパンを穿いて、5万円のTシャツを着ていました。お兄さんとヒデちゃんの腕時計はロレックスとフランクミューラーでした。お姉さんはエルメスのブラウスを着て、グッチのジーパンを穿き、グッチの帽子をかぶり、グッチのサングラスをしていました。腕時計は300万円もしたという金無垢のロレックスでした。3人ともファッションセンスがゼロで、成金の「おのぼりさん」みたいでした)。

Uさん宅でただひとり運転ができるのはお兄さんだ。だが、お兄さんはとても運転が下手なので(クルマはぼこぼこになっています)、旅行の時にはいつも僕が運転を担当する。31日も、僕が運転して仙石原を目指した(白のエルグランドには障害者マークがベタベタと張ってあるので、ほかのクルマは優しくしてくれます)。

障害者をふたりも乗せているので、僕は運転にはひどく気を遣った。急発進、急ブレーキは厳禁である。箱根は道が曲がりくねっているから、特に急カーブでは慎重になった。

けれど、3人がいつもやかましく喋っているので、なかなか運転に集中できない。

そう。3人はとてつもなくお喋りなのだ。目を覚ましている時には、喋っていないと死んでしまうのだ(笑)。

僕たちと会うと、3人はそれぞれいっせいに別のことを喋る。3人が3人とも、猛烈な勢いで喋る(お姉さんはものすごく早口です。お姉さんは自分が喋りたいものだから、ほかのふたりに「黙ってて」「もう喋らないで」と何度も命じます。

けれど、ふたりはその命令を無視して喋り続けます。彼らが居酒屋を経営していた時も、僕たち夫婦は3人の話を聞かされに行っていたようなものです)。

けれど、僕たち夫婦はふたりなので、3人の話を同時に聞くことはかなり難しい。

そんなわけで、3人と別れるとほっとする。「やれやれ」「ふうっ」という感じである。

それでも、しばらく会わないでいると、また3人に会いたくなる。会えば一方的に喋られるだけだとわかっているのに、そのけたたましいお喋りが懐かしくなる。

本当に変わった3人である。

お兄さん、お姉さん、ヒデちゃん。滅茶苦茶に書きましたが、僕はあなたたちが好きです。一緒にいると、僕のほうまで気持ちが明るくなります。これからもよろしくお願いします。また遊びに行きましょうね。体には気をつけてくださいね。

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