Diary 雑記

16

忘れられない夏がある。

あれはもう4半世紀も前のこと・・・夏休みのあいだずっと、僕は家から一歩も出ないことに決めた。

なぜ、そんな突飛なことを思いついたのか、今ではよく覚えていない。

もしかしたら、「悟り」でも開くつもりでいたのかもしれない。

とにかく、その夏休みのほとんどの時間を、僕は庭の離れにあった自分の4畳半で過ごした。自分の部屋を出るのは風呂とトイレ、それから家族と食事をする時だけだった(今と同じように当時の僕も1日2食だった)。

狭くて蒸し暑い(僕の部屋にクーラーなどなかった)部屋にこもった僕は、自分に能動的な行動をとることを禁じた。

本も雑誌も新聞もマンガも読んではならない。音楽も聞いてはならない。テレビもラジオもつけてはならない。英単語を覚えることも、数学の問題集を広げることもしてはならない。何かを書くこともしてはならない。歌も歌ってはならない。ギターも弾いてはならない。自分の部屋では水以外のものは口にしてはならない。電話もしてはならない(当時は携帯なんてなかった)。友達を部屋に呼ぶこともしてはならない。

僕が自分に許したのは、空想することだけだった。

僕は湿った布団に寝転がり、あるいは畳にあぐらをかいて、壁や天井や窓に掛かったカーテンを見つめ続けた。40日のあいだ、ずっとそれを続けた。

僕の友人たちはきっと今ごろ、勉強をしたり、夏期講習に行ったり、ガールフレンドとデートをしたり、テレビを見たり、海やプールで泳いだり、アルバイトをしたりしているのだ。それなのに、僕は何もしていないのだ。青春の貴重な時間を、ただ無意味に費やしているのだ。

それは、おそろしいほど不毛で、おそろしいほど空しく、おそろしいほど退屈な時間だった。最初の1日か2日はイライラして、頭が沸騰したようになって、叫びだしそうになったほどだった。けれど、僕はそれを続けた。40日間も続けた。そして、そのあいだに、考えなくてもいいようなことをたくさん考えた。

妄想。そうだ。あの夏、僕の頭の中は妄想だらけだった。「悟り」など、結局、開けはしなかった。

あれから4半世紀が過ぎた今年、僕はあの時の経験を元にした長編作品を3つ続けて書いた。「復讐執行人」「1303号室」、そして9月に光文社から出る「死人を恋う」の3作である。今になって思えば、あの夏の経験がそんな人たちを書くのに役に立ったのだと思う。

まあ、あの時は将来、自分がそれを題材に何かを書くようになるとは思ってもいなかったのですが・・・。

40日とは言いませんが、もし、気が向いたら、みなさんも3日か4日、部屋にこもってみるといいですよ。

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