Diary 雑記

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立命館大学のPENクラブに招かれて、学生たちの前で講演をするために秋の京都に出かけて行った。

講演だなんて、初めての経験である。とても緊張した。おまけに毎年行われるその講演には、中島らもさん、渡辺淳一さん、島田雅彦さん、浅田次郎さん、夢枕獏さん、鈴木光司さんなどなど・・・高名な作家ばかりが招かれているのである。それを聞いただけで、僕はすっかりおじけづき、畏縮してしまった。

何を話したらいいんだろう? そもそも僕なんかが、そんな場に立っていいものだろうか?

主催者である「立命PENクラブ」のみなさんには、僕の学生時代のことや、本についての話をしてほしいと言われていた。それで、最初は僕もそうするつもりでいた。

けれど・・・困ったことに、学生時代の僕には若い学生たちに話して聞かせられるような特別な経験が何もないのである。

うーん。いったい、どんなことを話したら、若い人たちのためになるのだろう?

せっかく話を聞きに来てくれるのだから、できれば、何か、若者がこれから生きていく上で役に立つようなことを話したかった。

だが、学生たちの2倍もの時間を生きて来たにもかかわらず・・・僕は人生でほとんど何もしてこなかった。

だから、若者たちのためになる話ができるはずもなかった。

そう。思い返してみれば、僕はきわめて平凡で、ありきたりな人生を送って来たのだ。作家としての実績もなく、芥川賞も直木賞ももらっていなくて、若者に自慢できるようなことは、何ひとつないのである。

それでも、こんなダメな、僕のような人間でも、きょうまでの45年間、何とか生き延びてこられた。僕なんかでさえやって来られたのだから、みんなはきっと僕よりはうまく生きていけるはずだ。

僕はそれを学生たちに伝えようと考えた。

そして、若者たちが明日から、もっと自信を持って元気に生きていけるように、少しでも若者たちの力になりたい・・・そんなことを考えながら、僕は講演の原稿を書いた。

それにしても、僕みたいな無名の小説家の話を聞きに、わざわざ人が来てくれるのだろうか? もし、数人しか来なかったら、PENクラブの学生たちに何と言って謝ろう?

講演の直前まで、それが心配でたまらなかった?ところが・・・立命館大学の講堂には、思っていたよりずっと大勢の人が来てくれたのである。

サイン会の時もそうだったが、僕は感激して泣きそうになってしまった。

さて、講演では思った通り、しどろもどろになってしまった。僕は話をするのが、とてつもなく苦手である。

話している途中で頭がぼーっとして、何がなんだか、わからなくなった。

おまけに、予定時間よりもずっと早く話が終わってしまった。

やっぱり失敗してしまった。

心の中で僕はひどく落ち込んだ。穴があったら、すぐにも入りたいような気持ちだった。

それにもかかわらず・・・若者たちは僕に暖かい拍手を送ってくれたのである。おまけに、控え室まで僕を訪ねて来てくれた人までいたのである。

あーあ。若者を励ますつもりが、逆に僕が励まされてしまった。

やれやれである。

若者たちのためにはならなかったかもしれないけれど、僕にとっては、非常に有意義な体験だった。

貴重な時間を割いて、わざわざ聞きに来てくれた若いみなさん、ありがとうございました。ここでもう1度、感謝いたします。

それから、「立命PENクラブ」のみなさん、本当にいろいろお世話になりました。みなさんが僕に示してくれた誠意と優しさには、何と言って感謝したらいいか、わからないほどです。ありがとうございました。あまりお役に立てなかったけれど、許して下さいね。

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