Diary 雑記

57

たいていは年に2度、時には3度、僕たち夫婦は南の島に出かけている。

南の島のリゾートホテルなんて、どこも似たようなものだから、どこに行ってもかまわないのだが、最近はバリ島に行くことが多い。そこにスワルタさんとその家族が暮らしているからだ。

スワルタさんは僕より10才年下。以前は高級ホテル内にある有名な日本料理店で板前として働いていた。日本に行った経験はないが、日本人仕込みの、腕の確かな職人さんだ。スミアチさんという優しい奥さんと、華奢で可愛いノラという14才の娘と、ウゴーという9才の男の子がいる(この男の子は僕にとても懐いている)。

 今から3年ほど前、スワルタさんの働く日本料理店で僕たち夫婦は彼に出会った(海外で日本料理店に行くことはまずないのだが、その時は急に日本食が恋しくなって、たまたま行ったのだ)。それ以来、バリ島に行くたびに、僕たち夫婦はスワルタさんとその家族に会っている。

南の島での僕たちは、いつも同じホテルに長く宿泊しているから、ホテルのスタッフや、ホテルの近所に暮らす人たちと顔見知りになり、親しくなることが少なくない。

けれど、僕たちと親しくしたがる人たちのほとんどは、日本人である僕たちに対して、ある種の「見返り」を少なからず期待している。

そういう人たちは僕たちを顔見知りのレストランに誘ったり、オプショナルツアーに誘ったりする。自分の子供たちの写真を見せて、露骨にお金をせびった人もいた。

日本人は南の島の人たちに比べれば遥かに裕福なのだから、それはしかたのないことだ。僕は彼らを非難するつもりは、まったくない。

けれど、スワルタさんには、見返りを期待するようなところがまったくない。それどころか、自分のクルマで僕たちをドライブに連れて行ってくれたり、デンパサールにある自分の家に招いてご馳走してくれたり、親戚のお葬式(ガベンといいます)に招いてくれたり、ガルンガンやクニンガンというお祭りに招いてくれたりもする。

年収が平均的な日本人の10分の1にも満たないはずなのに、スワルタさん一家は僕たちに食事だけでなく、現地人にとっては高価なビールまでご馳走してくれるのだ。せめてクルマのガソリン代を僕が払おうとしても、絶対に受け取らないのだ。

そのお礼として、僕たちもスワルタさんたちをホテルに食事に招いて、食事を奢ったたりもしている。スワルタさんとスミアチさんはいつも遠慮するが、娘のノラと息子のウゴーは、高級ホテルのレストランでの食事に大喜びである。

そんなわけで、今回も僕たちは日本からたくさんのお土産を抱えてバリ島に行った。

けれど、今回はスワルタさんに会えないことはわかっていた。彼は今、オーストラリアの日本料理店に出稼ぎに行っているのだ。

バリ人としてはスワルタさんの稼ぎは悪くないほうらしい。だが、彼は娘のノラをオーストラリアの大学に、将来は息子のウゴーをやはり先進国の大学に留学させるために、必死で働いているのだ。

子供を先進国に留学させるのは、バリ人にとっては、ものすごく大変なことだ。そんなことのできるバリ人は、ほんの一握りしかいない。

だが、彼は本当に働き者である。オーストラリアに行く少し前は、アラブ首長国連邦のドバイの日本料理店に出稼ぎに行っていたこともあった。

今回、バリ島に着くとさっそく、僕たちは日本から持って来たお土産をスワルタさんの家に送った。するとすぐに、奥さんのスミアチさんからお礼の電話が来た。さらに、ノラとウゴーを連れて、僕たちが宿泊しているホテルまで会いに来てくれた。

まるで家族に再会したみたいで、それは本当に楽しい時間だった(スミアチさんと僕の妻は仲がいい)。

ホテルのレストランで食事をしたあとで(子供たちはふたりとも、アメリカナイズされた食べ物が好きだ)、みんなと一緒に僕たちの部屋に行った。僕はたまたま空港の売店で買った「子犬のように、君を飼う」を持っていたので、その本にサインをして娘のノラにプレゼントした。

すると14才のノラはその本を胸にしっかりと抱き締め、「日本語を勉強して絶対に読めるようになる」と言った。

その様子はとても可愛らしくて、とても健気で、思わず抱き締めたくなってしまった(もちろん、抱き締めてはいません)。

翌日にはオーストラリアのスワルタさんから、お礼の電話が来た。彼は今、一日に15時間近くも働いているそうだ。そのせいで、太めだったスワルタさんはすっかり痩せてしまったらしい。「痩せる」という日本語を知らないらしいスワルタさんは、「薄くなった」と言っていた。その言葉が妙に生々しかった。

「身体にはくれぐれも気をつけて。近いうちにまたお会いしましょう」

そう言って、僕は電話を切った。そして、彼が病気になったりせず、無事にバリの家族の元に戻って来ることを心から願った。同時に、ろくに働きもせず、遊んでばかりいる自分を恥じた。

さて・・・現在の僕の心配は、ノラがいつか、日本語で書かれた僕の本を読めるようになることである。あるいは、僕の本がインドネシア語に翻訳されることである。

もし、そんなことになったら、僕が「変態中の変態」であるということが彼らにばれてしまう!! そうしたら、もしかしたら彼らは僕と絶交するかもしれない。少なくともノラは、もう僕とは口をきいてくれなくなるだろうなあ。

Diary list

Diary:150〜159
Diary:140〜149
Diary:130〜139
Diary:120〜129
Diary:110〜119
Diary:100〜109
Diary:90〜99
Diary:80〜89
Diary:70〜79
Diary:60〜69
Diary:50〜59
Diary:40〜49
Diary:30〜39
Diary:20〜29
Diary:10〜19
Diary:1〜9
このページのトップへ