Diary 雑記

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平塚と町田のあいだを自分のピックアップトラックで11回も往復した引っ越しも無事に終わり、8月の初めから妹夫婦の家に暮らし始めた。

とてつもなく急な坂の上の、とてつもなく高い石垣の上に建つ家で、近所の人々は「坂の上の家」と呼んでいるらしい。あまりに高いところに建っているので、2階の窓からだと街のすべてが見渡せる。

2階の窓は、マンションの5階か6階ぐらいの高さだから、確かに見晴らしはすごくいい。だが、外から家に入るためには、急な坂を上り、急な階段を上らなくてはならないので、ものすごく疲れる。

さて、この家。高いところにあるだけではなく、とにかく広い。

いや・・・一般的な一戸建てと比べると、そんなに広くはないのかもしれないが、少なくとも僕たち夫婦には広すぎるのだ。

この家の1階にはトイレのほかには一部屋しかない。だが、この1階のリビングダイニングキッチンは、畳に換算すると30畳ほどもある。床はフローリングではなく、ざらざらとしたテラコッタのタイル張りになっている。

2階にも浴室とトイレのほかには、寝室と僕の書斎しかない。だが、この寝室もとてつもなく広い。おそらく畳に換算すると、20畳はあるだろう。

広くていいと考える人たちもいるかもしれない。

けれど、20年にわたって狭いマンションの暮らしに慣れた僕たち夫婦は、その広さに戸惑っている。広すぎて、どこにいても落ち着かないのだ。

面積が広い上に、大きな窓がたくさんある。それで妻は一日中、掃除と窓ふきに追われている。さらに木々の茂った庭もあるから、その手入れもすごく大変である(芝生もあります。家庭菜園まであります)。

何から何まで注文建築で作られたこの家は、まるで別荘のような構造で、好き嫌いはあるだろうが、お洒落と言えばお洒落である(斜面を利用して2階にも第二玄関がある!!)。妹はそのお洒落さが自慢だったらしい。

だが、お洒落なだけで、使い勝手はあまりよくない。それに明るすぎる!!

そう。この家は明るすぎるのだ。明るくて、明るくて困るのだ。

前述したように、寝室にもリビングダイニングキッチンにも、とてつもなく大きな窓がいくつもある。2階にはすべての部屋に天窓がある。2階のトイレにまで天窓がある。2階の浴室にまで大きな窓がある。

おかげで、家の中でずっと執筆をしていたというのに、僕は熱帯に旅して来たかのように真っ黒に日焼けしてしまった(カーテンを閉めても、あまり効果がないようです)。

日焼けを恐れる妻は、目覚めるとすぐに日焼け止めクリームを塗っている。だが、寝室には天窓が3つもあって、そこから朝日が差し込むから、寝ているあいだにも日焼けをしてしまうのだ(天窓にはカーテンがない)。

さらに、もうひとつ、非常に大きな問題がある。

庭のフェンスの向こう側が、なんと、小学校の校庭なのだ!!

この家は学校にいちばん近い家なのだ!!

夏休みだというのに、その校庭でガキどもが早朝から夕方まで野球やサッカーをしている。

おかげで、パンツ一丁で執筆している僕は、タバコを吸うために庭に出るのにも、いちいち服を着なければならないのだ。さらにガキどもの声で、朝はしばしば眠りを邪魔されるのだ(我が家は10時半まで眠る習慣です)。

さらにさらに、ガキどもの立てる土ぼこりが、窓から家の中に容赦なく吹き込む。そのせいで、僕の机の上もパソコンもワープロも、何もかもが、あっという間にザラザラになってしまう。

おまけに僕の甥のひとりが、この少年野球チームに所属している。

そして、コーチから怒られてばかりいる。

コーチが大声で「大石!! 何やってんだ!!」「大石、バカやろう!!」「大石、もたもたするな!!」と怒鳴るたびに、僕はビクッとしてしまうのだ。

「今までのマンションが懐かしいわね」

妻は言う。

僕も同感である。だが、せっかく苦労して引っ越したのに、今さら戻るわけにもいかない。

繰り返すようだが、一戸建ての暮らしには戸惑うことばかりである。身体も意味もなく疲れて、体重も減ってしまった。

けれど、この家も悪いことばかりではない。

窓を開けておくと、庭の木々にたくさんのセミが来る。そして、ものすごい声で鳴きまくる。それはそれは、耳を聾するほどの大合唱である。それがあんまり素敵なので、音楽を聴くこともなくなった。

夜になれば、辺りは打って変わって、しんと静まり返る。聞こえるのは虫の鳴き声だけで、うっとりとするほどにロマンチックである。

朝はガキどもの声に交じって、庭に来るヒヨドリやオナガたちの声がする。チュンチュンというスズメたちの可愛らしい声もする。

起きて庭に出ると、朝露に濡れた花が僕を出迎えてくれる。

アサガオも咲いているし、バラも咲いている。サルスベリも、サルビアも、ナデシコも、ホトトギスも、キキョウも咲いている。

そんな花に囲まれて、僕は毎朝、ゆっくりとタバコを吸い、コーヒーを飲む。

僕たち夫婦はそんな家に引っ越してきました。少なくとも4年はここで暮らすつもりです。

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