Diary 雑記

76

先月のこの欄で我が家の庭の樹の上に作られた巣の中で、ヒヨドリが卵を抱いていると書いた。

その後、8月7日に、僕たち夫婦は巣の中に2羽のヒナの姿を発見した。卵を温め始めてから、17〜19日後のことである。

ヒナはどちらも丸裸で、まだ目も開いていないように見えた。

妻と僕はヒナの誕生に歓喜した。そして、その2羽のヒナが無事に成鳥になってくれることを心から願った。

けれど……結果として、2羽のヒナはどちらも悲しいことになってしまった。きょうは、その報告です。

8月7日、もしくは6日に生まれたヒナは、どちらも急速に成長した。本当に1日ごとにぐんぐん大きくなっていったのだ。

先月はヒヨドリが夫婦で卵を抱いていると僕は書いた。だが、その後の観察によれば、子育てにいそしんでいるのは1羽だけ、おそらく母親だけのように見えた。

ヒヨドリの母は本当に頑張っていた。

連日の異常な猛暑の中、母鳥は1日に何十回も、辺りが暗くなるまで、バッタやカマキリや蛾やクモを、巣で待つヒナたちに運んだ。

夕立が降り始めると、慌てて巣に戻って来て、ヒナたちの傘になっていた。

夜、最後に巣に戻る時には、外敵がいないか、入念に辺りを見まわして警戒していた。

その健気な姿は、見ているだけで涙ぐみそうになるほどだった。

妻と僕は毎日、ほとんど10分おきに、時には5分おきに、ブラインドの隙間から巣をのぞいた。最初の頃は、母鳥が巣に戻って来て餌をもらう時にしか見えなかったヒナたちの姿は、数日後にはいつでも見られるようになった。ほんの数日のうちに、それほど大きくなっていたのだ。

「お母さん、偉いわね」

母鳥が餌をくわえて巣に戻ってくるたびに、妻は感心したように言った。

「うん。本当に偉いなあ」

僕も同意した。僕はその母鳥を、ほとんど尊敬さえしていたのだ。

ある晩、僕たち夫婦がランニングから自宅に戻って来ると、巣のあるハナミズキの樹の下を猫が歩いていた。

僕たちは恐怖に震え上がり、すぐに猫よけの敷物を樹の下に敷いた。20数年前、自宅の庭にあったヒヨドリの巣を猫が襲ったのを僕は覚えていたのだ。

ヒヨドリの子育てに人間が関与すべきではないということはわかっていた。もし、猫に殺されたのなら、それが自然の摂理なのだ、と。

けれど、むざむざと猫に殺させてしまうわけにはいかなかった。

無知な僕は、ヒナは8月の終わり頃には巣立つのではないかと予想していた。

けれど、そうではなかった。

僕たちがヒナを初めて確認したわずか1週間後、8月14日の朝、妻が「ヒヨドリのお母さんの様子がおかしい」と言い始めた。

そう。いつもなら、餌をくわえてヒナたちのところに真っすぐに戻るはずの母鳥が、巣には戻らず、少し離れたところで「キーキー」と鳴いているのだ。

つまり、母鳥はヒナたちに「餌が欲しいなら、ここまでおいで」と、巣立ちを促していたのだ。

生まれて1週間でもう巣立ちをさせるのか!!

妻と僕はひどく驚いた(あとで調べると、ヒヨドリは孵化の7日〜10日後には巣立つらしい)。

2羽のヒナたちは、ひどくためらいながらも、餌欲しさに巣から出た。そして、近くの枝にいる母鳥のそばに飛び移った。

巣立ちである。

その姿に妻と僕は、またしても涙ぐむほどに感動した。午前11時半頃のことだった。

ヒナたちはまだほとんど飛べなかった。尾羽もまったく生えていなかった。それにもかかわらず、母鳥に導かれ、枝から枝へと、少しずつ、少しずつ移動していった。

その姿は本当に愛らしかった。捕まえて頬擦りをしたいほどだった。

けれど……それからわずか2時間半後に、2羽はどちらもカラスにやられてしまった。

1羽目がやられたのは見なかった。ただ妻が「フェンスの上でカラスが何か食べてて、カラスのそばでヒヨドリのお母さんがすごく怒って鳴いてる」のを見ただけだった。

だが、2羽目が殺される瞬間は、夫婦で目撃した。

電柱に止まっていたカラスが、小学校の石垣の上にうずくまっていたヒナに気づいたのだ。

僕たちは慌てて外に飛び出した。けれど、何もすることはできなかった。ただ、カラスとヒナとヒヨドリの母を、じっと見つめているだけだった。

カラスがヒナに襲いかかった瞬間、勇敢にもヒヨドリの母は「キーキー」と大声で鳴きながら、自分より遥かに大きいカラスに攻撃をしかけた。

けれど、ヒナを救うことはできなかった。

次の瞬間、カラスはヒナをくわえて宙高く飛び立った。

「ああっ……」

妻と僕は思わずその場にしゃがみ込んだ。脚の力が抜けて、立っていることができなかったのだ。

母鳥はヒナがカラスにやられた瞬間を見ていたはずだった。

けれど彼女は、いつまでもヒナが殺された場所から離れなかった。そして、辺りが暗くなるまで、ヒナを探し続けていた。何度かはヒナのためにバッタやコオロギを運んで来て、「キーキー」と鳴いてヒナを呼んでいた。

その姿は、あまりにも哀れだった。

ああっ……あんなに一生懸命に卵を温めていたというのに……あんなに頑張って餌を運び続けたというのに……。

たぶん、これが自然の摂理なのだろう。僕たちが見たことがないだけで、こういうことは日常的に起きているのだろう。

それはわかっていても、その瞬間を目撃してしまった僕たち夫婦のショックは大きかった。それほどのショックを受けたのは、愛犬のピーナッツが死んだ時以来のことだった。

8月が終わろうとしている今も、窓の向こうのハナミズキの上には、ヒヨドリの巣が残っている。それを見つめながら、僕は今も、そこでヒヨドリの母が卵を温めていた様子や、ヒナに餌をやっていた様子を思い浮かべている。

たった8日か9日しか生きられなかったヒヨドリのヒナたちに合掌。

Diary list

Diary:150〜159
Diary:140〜149
Diary:130〜139
Diary:120〜129
Diary:110〜119
Diary:100〜109
Diary:90〜99
Diary:80〜89
Diary:70〜79
Diary:60〜69
Diary:50〜59
Diary:40〜49
Diary:30〜39
Diary:20〜29
Diary:10〜19
Diary:1〜9
このページのトップへ