Diary 雑記

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この半月ほどのあいだ、我が家に毎日のようにお客さんがやって来る。我が家の庭と隣接する小学校に通う6年生の少女たちである。

そもそもの切っ掛けは,第二玄関の外の日だまりに寝そべっていた「お菊」を,ピンクのランドセルを背負った学校帰りの少女が発見したことだった。

その子は猫語で「にゃー、にゃー」と鳴きながら,「お菊」に近づいて来た。それで、すぐそばで煙草を吸っていた僕は「お菊」を捕まえ,「抱く?」と訊きながら、その女の子の前に差し出した。

人見知りの「お菊」は迷惑そうだったが,その子は喜んで「お菊」を抱きしめ,頬擦りをしたり、無理やりキスをしたりしていた。

その子はなかなか可愛らしかった。そんな小学生の女の子と,変態作家である僕が親しく話しているのを近所の人が見たら,その人はすぐに警察に通報するに違いない。そんなことになったら、一大事である。

それで僕は妻を呼んでその子の相手をしてもらい、自分は執筆に戻った。

ただ、それだけのことだと僕は思った。もうあの子と会うこともないのだろうなあ、と。

けれど、そうではなかった。その翌日から,その子はほとんど毎日,我が家にやって来るようになった。そして、嫌がる「お菊」を無理やり抱きしめたり、妻と取り留めのない話をしていくようになった。

その子は最初は遠慮して,家の中に入らなかった。けれど、雨が降った日に我が家のリビングルームで「お菊」と遊んでからは,毎日,家の中に入って来るようになった。

その子は妻が好きなようで、キッチンにいる妻の横に立って,その日の学校での出来事を話したり,家事などを手伝ったりした。

妻もその子を可愛いと思うようで、その子のためにケーキを焼いた。僕も時々は執筆を中断して話の相手をした。

その子は僕が小説家の「大石圭」だと知ると,とても興味を抱いたようで、「サイン本をください」とねだった。

だが、もちろん、僕はそれを断った。だって、その子が「奴隷契約」を持ち帰ったら,親は絶対に警察に通報するはずだから。

小学校の休み時間などに僕が庭に出て植木に水を撒いていると、その子がしばしばフェンスの向こうに駆け寄って来る。その子だけではなく、ほかの女の子たちも駆け寄って来る。中にはフェンスの扉を開けて,我が家の庭に入って来る女の子もいる。

女の子たちが僕を「おじさん」と呼ぶのはいただけないが、ミニスカート姿のほっそりとした少女たちに囲まれるのは悪いものではない(前にも書きましたが,僕はロリコンではありません)。僕はもともと、10代と20代の女性には、とても甘いのだ(30代以上のかた、ごめんなさい)。

つい先日は,学校帰りの女の子たちが大挙して我が家にやって来た。そして、妻の焼いたシフォンケーキを食べ(少女たちのため、妻はしばしばケーキを焼く),僕がいれたココアを飲み,執筆する僕を無視して大騒ぎを繰り広げた。

少女のひとりは,家の中をくまなく探検し,クロゼットを開けたり,二階のロフトに上ったり,妻の化粧道具をいじりまわしたりしていた。別のひとりは僕に「美人の奥さんで良かったね」と、信じられないほど生意気なことを言った。また別のひとりは編集者みたいに僕のワープロを覗き込み,「執筆は進んでますか?」と訊いた(ちょうどエッチなシーンを書いていたので、僕は慌てて隠した)。別のひとりは僕に「奥さんと、どこでどうやって知り合ったの? どっちが告白したの?」と質問した。

帰り際に少女たちは、「また明日も来ていいですか?」と訊いた。

妻も僕も「いいよ。また、おいで」と答えた。本当はちょっと迷惑だったが、「来るな」とは言えなかった。

そんなわけで、翌日からも女の子たちはやって来た。彼女たちの辞書には「遠慮」という言葉は存在しないのだ。そして、我が家はいつの間にか,下校する少女たちの溜まり場になってしまった。

それにしても……少女たちが、あまりにも大人びていることに僕たち夫婦は驚いた。そこにいるのは少女というより、生意気で,高飛車で,口の減らない小娘だった。時には大人の女みたいにも見えた。

我が家での少女たちは、どういうわけか、入れ替わり立ち替わりトイレに入る。そして、いったんトイレに入ると、いつまでたっても出て来ない。

「何をしてるのかしら?」

妻は首を傾げた。

僕にも少女たちがトイレで何をしているのかがわからなかった。

けれど、少女たちが帰ったあとで、トイレに入って気がついた。

我が家の一階のトイレを僕たち夫婦が使用することはめったにないのだが、そこはとても明るくて,壁には大きな鏡がついている。トイレに入った少女たちは、その鏡に移った自分を見ていたに違いないのだ。

そういえば、トイレから出て来るたびに,少女たちは下ろしていた髪をリボンで結んだり,結んでいた髪を下ろしたり、別の形に結び直したりしていた。トイレに行く時に,ランドセルからわざわざヘアブラシを取り出して持って行く子もいた(女の子たちはみんな、小娘みたいに髪を長く伸ばしています)。

「檻の中の少女」という小説を書いていた時、僕は主人公の小学校6年生の少女「桜蘭」を、少し大人びて書き過ぎたかもしれないと考えていた。実際の小学6年生は、もっと無邪気で、もっと子供っぽいのではないか、と。

でも、それは違っていたようだった。少なくとも,我が家に押し掛けて来る女の子たちは、「桜蘭」に負けないほどに大人びている。そして、「桜蘭」に負けないほど生意気で,高飛車で,口が達者で、生き生きとしていて、野性的で……まさに、ナボコフが「ロリータ」の中で描いたニンフェットだった。

土日は少女たちはやって来ない。それで今日は,夫婦で一息ついています。でも、また月曜日からは,少女たちが押し掛けて,大騒ぎをしていくんだろうなあ。ふう。

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