Diary 雑記

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3月21日から月末まで、インドネシアのバリ島にいた。またしてもバカンスである(編集者たちは「またバカンスですか」と呆れ顔です)。

それでも、いつものように、僕はバリ島にワープロとパソコンを持参した。今後、角川ホラー文庫と幻冬舎アウトロー文庫、それに「小説現代」への新作長編小説を同時進行で執筆しなければならないので(「小説現代」に短編官能小説も書きます)、バリ島のホテルでも日本にいる時と同じように仕事をしようと思ったのだ。

予定通り、バリ島に着いた翌日とその翌日は、ほとんどホテルの部屋で仕事を続けた。そして、その翌日も仕事をしようと思って机に向かったら、いつもはおとなしい妻が激怒した。

「仕事ばかりしている人とバカンスに来ても、全然、楽しくない。仕事を止めないなら、日本に戻ったら離婚する」というのである。

離婚されたら、大変だ。妻がいなければ、僕は銀行でお金を下ろすこともできなければ、洗濯機を動かすことさえできないのだ。

しかたなく、その日から僕は仕事をするのを止めた。そして、妻と一緒に水着になってプールサイドで日光浴をしたり、ショッピングセンターやデューティーフリーショップに買い物に行ったり、水着姿で海辺を散歩したり、ホテルのスパでマッサージを受けたりした(妻とふたりで、初めて二の腕や足首にインスタントタトゥーまでしました)。

それはそれで楽しかったのだが、仕事を止めた日と、その翌日ぐらいは、何をしていても仕事のことが頭に浮かんで、何となく「もやもや」とした気分だった。僕は仕事中毒なのだ。

けれど、そのまた翌日ぐらいになると、仕事のことはあまり考えなくなった。そして、旅の後半には仕事を完全に忘れて、本当に楽しい日々を過ごすことができた。

何というか、久しぶりに「羽を伸ばした」という気分だった。

旅の最後の日には、またホテル内のスパに行った。

妻と並んで全身のマッサージを受けたあとで、夕暮れ時の屋外のガゼボの下で海を眺めながら、リフレクソロジーのマッサージをしてもらっていると、その屋根で爬虫類が鳴き始めた。現地の人たちが「ゲッコー」と読んでいる25センチ前後の爬虫類である(熱帯でよく見かける白くて小さなヤモリとは違うようです)。

「トッケー……トッケー……トッケー……トッケー……」

妻と僕は無言で指を折り、その声を数えた。「奴隷契約」という小説にも書いたが、この爬虫類が11回続けて鳴くと、それを聞いた人には「いいこと」があるというのである。

「トッケー……トッケー……トッケー……トッケー……」

僕たちは年に2度か3度は熱帯の島々に行っているが、この爬虫類が11回続けて鳴くのを聞いたことはほとんどない。たいていは7回か8回、頑張ったやつでも10回が限度である。だから、今回もあまり期待してはいなかった。

だが、ガゼボの屋根裏にいるらしいその爬虫類は、なんと16回も鳴いたのだ!!

「16回!! 何かいいことがあるかも」

妻が嬉しそうに言った。

その後、リフレクソロジーのマッサージのあいだに、その爬虫類は14回と13回、続けて鳴いた。そんな経験は初めてのことだった。

「絶対にいいことがある!!」

妻がさらに嬉しそうに言い、僕も「愛されすぎた女」が東野圭吾さんの10分の1ぐらいは売れるようになるのではないかと期待したりもした。

さて、その後、僕は妻と一緒にホテルの図書室に行った。

そこの棚に並んでいたのは、ほとんどが英語かフランス語かスペイン語か中国語の書物だった(欧米人観光客の多いホテルです)。日本の文庫本もあるにはあったが、わずか30冊ほどだった。

どんな本があるのかな?

僕たちは何気なく書棚を覗き込んだ。そして、びっくりした。

村上龍さんの「フィジーの小人」と、川端康成の「伊豆の踊り子」に挟まれるようにして……なんと、なんと、大石圭の「人を殺す、という仕事」があったのだ!!

うーん。16回も続けて鳴いた爬虫類がもたらしてくれた「いいこと」って、これだったのかな?

いずれにしても、南半球の小さな島のホテルの図書室で自分の本に出会えたのは、とても嬉しいことだった。僕は涙もろいので、ちょっと涙ぐんでしまった。

というわけで、久しぶりに熱帯でのバカンスを満喫して参りました。帰国したので、明日からは死にものぐるいで仕事をします(今も成田のホテルの部屋でこれを書いています)。

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