Diary 雑記

73:失恋

  • オス猫との遭遇1
  • オス猫との遭遇2
  • オス猫との遭遇3
  • オス猫との遭遇4
  • オ失恋の直後

夏のあいだは外になんか出たがらなかったというのに、最近の「お菊」は僕が外に煙草を吸いに出るたびにあとをついて来る。そして、勝手に道路をうろうろと歩き回り,道ばたに生えている草を食べたり、日だまりに寝転んだり、小鳥を狙ったりしている。

さて、一昨日のことである。

煙草を吸う僕と一緒に外に出た「お菊」は、「にゃー、にゃー」と鳴きながら(最近の彼女は、とても良く鳴く)、狭い私道を横切り(住宅街の中なのでクルマは来ないので安心です)、お向かいの「Nさんの家」の階段を上って行った。そんなことは初めてで,僕は興味津々で見守っていた。

この住宅街は急斜面にあり、どの家も構造が複雑なので、ちょっと説明が面倒なのだが,Nさんの家は階段を上るとそこが玄関前のポーチになっていて、その横に物置の屋根がある。「お菊」のやつは、Nさんの家の玄関ポーチをうろうろしたあげく,ポーチからその物置の屋根に飛び降りたのである(急斜面にあるので、本当に説明がしずらいのですが、要するに,玄関より物置の屋根のほうが低いのです。詳しくは写真を見てください)。

「おおっ、そんなことまでできるようになったのか!!」

僕は少し驚いた。その姿はまるで、野良猫のように敏捷だったのだ。

さて、その後、さらに興味深いことが起きた。

「お菊」の乗っている物置の屋根のすぐ下の道路を,大きなオス猫がゆっくりと歩いて来たのだ(睾丸があるのでオスだとわかりました)。

先に屋根の上の「お菊」がオス猫に気づいた。

その後で,道路にいたオス猫のほうも「お菊」に気づいた。

そして、その瞬間,両者は石像のように凍り付いてしまった。

僕は急いで自宅に入り,「ちょっと、おもしろいことになったよ!!」と妻を呼んだ。

キッチンで食事の支度をしていた妻は、すぐに飛び出して来た。

妻と僕は、オス猫と「お菊」の様子を,興味津々で見守った。

まるで愛するふたりのように、オス猫と「お菊」は長いあいだ、身じろぎもせずに見つめ合っていた。

妻はおもしろがって,携帯電話を使ってその様子を何枚も写真に収めた。

「きっと、あの猫,キクに一目惚れなのよ」

自信ありげに妻が言った。妻は昔から,「人間だったら,キクはすごく美人で,男の子にモテモテよ」と信じて疑わないのだ。

「本当かなあ?」

「絶対よ。もし、あの猫がキクを好きになって、キクもあの猫を好きになったらどうする?」

妻はとても嬉しそうだった。

「もし、本当にそうなら,僕はふたりを認めるよ」

「認めるの?」

「ああ。結婚は両性の合意のみに基づいて行われるものだからね」

僕は答えた。そして、夫婦となったオス猫と「お菊」が、我が家でいちゃいちゃしている姿を想像した。

そのオス猫は,実に堂々としていて、顔つきもなかなか精悍で,「お菊」の夫としては悪くないように見えた。

「あのオス猫,いつまでもじもじしてるのかしら? 早くキクに告白すればいいのに」

イライラしたように、妻が言った。妻は本当に,そのオス猫が「お菊」に一目惚れしてしまったと思っているようだった。

けれど、僕は半信半疑だった。そのオス猫は逞しくて若そうだったが,「お菊」はすでに6歳半のおばさん猫だったからだ。

石像のように硬直したまま,オス猫と「お菊」は5分ほど見つめあっていた。それから……オス猫は「お菊」から視線を逸らし、ゆっくりと歩み去ってしまった。

「あーっ、振られちゃったわ!! 信じられない!!」

悲鳴を上げるかのように妻が言った。

「やっぱり、おばさんだから,嫌だったんだろう」

僕は笑った。

「なーんだ。キクって、意外とモテないのね」

呆れたように妻が言った。

はい。ただ、それだけのことです。いつも、くだらなくて、すみません。

それにしても、あのオス猫だったら,「お菊」の相手として認めてやるつもりだったのになあ。まったく、「お菊」はモテない猫です。にゃーお。

Diary list

Okikusama:150〜159
Okikusama:140〜149
Okikusama:130〜139
Okikusama:120〜129
Okikusama:110〜119
Okikusama:100〜109
Okikusama:90〜99
Okikusama:80〜89
Okikusama:70〜79
Okikusama:60〜69
Okikusama:50〜59
Okikusama:40〜49
Okikusama:30〜39
Okikusama:20〜29
Okikusama:10〜19
Okikusama:1〜9
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