93:ノボルの来た夏
先月のこのコーナーに書いたノルウェージャン・フォレストキャットのオスの子猫が、7月4日に我が家にやって来た。ワイン教室の友人(女性)の友人(こちらも女性)が猫のブリーダーをやっていて、その人がオークションで売れ残った子猫を連れて来たのだ(オークション会場で下痢をしたために、売れなかったようです。ノルウェージャン・フォレストキャットとしては、ものも悪いようです)。
チンチラの「お菊」がいるから、飼うのをためらっていたのだが、僕たち夫婦は断るのが苦手である。それでついに説得されて、飼うことになってしまったのだ(有料)。
子猫には妻が「ノボル」と命名した。
みなさま、今後、末永くよろしくお願いいたします。
このノボル、まるで子犬のようなのである。人なつこくて、明るくて、甘ったれなのだ。そして、とにかく、やかましくて、手がかかるのだ。
「猫っていうは、こんなにもやかましくて、こんなにも鬱陶しい生き物なのか」
僕たちは初めてそれを知った。
思えば、「お菊」は手のかからない猫だったのだ。静かだし、甘えないし、トイレを失敗することもないし、壁や柱で爪を研ぐこともない。悪さをしたことなんて、一度もないのだ。
だが、ノボルはそうではない。いつも悪さばかりしているのだ。
おかげで、僕たち夫婦は「ぐったり」である。
その上、案の定、「お菊」はノボルを受け入れない。ノボルは「お菊」が大好きで、近くに行きたがるのだが、「お菊」は激しく威嚇して近寄らせようとしないのである。
けれど、ノボルは猛烈にしつこい性格なので、威嚇されても威嚇されても「お菊」に近づく(母親だと思っているのでしょうか?)。
そうするうちに、「お菊」も威嚇するのに疲れたのか、今は前ほどには怒らなくなった(ノボルを認めたわけでは決してないようです)。
さて、名前の通り、ノボルはどこにでも昇る。
椅子にも飛び乗らない「お菊」とは対照的である。
そんなわけで、7月24日の昼前、ノボルはキッチンカウンターに飛び乗った。110センチほどの高さの場所である。そして、キッチンカウンターの上で動いていた扇風機(羽までが鉄製の大きくて、重たい扇風機です)に抱きつき、そのまま固いテラコッタの床に転落した。
僕はすぐ近くにいたので、その一部始終を目撃した。
ノボルは重たい扇風機の下敷きになり、凄まじい悲鳴を上げた。僕は頭から血の気が引き、思わず倒れそうになった。
内臓破裂は間違いない。
そう。僕はその瞬間、ノボルの死を思ったのだ。
二階にいた妻が駆けつけて来たが、ノボルはぐったりとなっていた。
僕は震えながらも、平塚の「桃浜動物病院」に電話をした。すると、院長がすぐに、この近くの「さとう動物病院」を紹介してくれた。
僕はノボルが死ぬことを半ば覚悟しながら、震える手でハンドルを握って「さとう動物病院」に向かった。助手席の妻の膝の上では、ノボルが苦しげな声を上げていた。
動物病院ではすぐにレントゲンの検査を受けた。結果は、右後ろ足(人間の踵に当たる部分)の亜脱臼、もしくは、強度のねんざであった。
「命には別状ないのでしょうか?」
僕の質問に院長は「大丈夫です」と頷いてくれた。
僕は足から力が抜けて、その場にしゃがみ込みそうになった。
亜脱臼、もしくは、ねんざの箇所は、非常にデリケートな部分で、もしかしたら、障害が残るかもしれないと言われた。そして、4週間の「絶対安静」を言い渡された。
というわけで、その後の4週間をノボルはゲージで暮らすはずだったのだが……ゲージに入れると、うるさく鳴く。しかたなくゲージから出すと、激しく飛び回る(翌日から元気を回復しました)。
今では、妻も僕も「障害が残ってもいいや」という気持ちで、ノボルのやりたいようにさせている。
幸いなことに、昨日(30日)の検査では、予後は順調のようである。
ノボルが来てから、間もなく1ヵ月。静かな生活が乱されて、妻も僕も「お菊」までもが、すっかり疲れ切っているのです。にゃーお。